犬の皮膚肥満細胞腫(MCT)

犬の皮膚肥満細胞腫(Mast Cell Tumor,  MCT)は、犬に最も多く発生する皮膚の悪性腫瘍です。皮膚のしこりとして発見されることが多く、見た目はさまざまで、良性のように見える場合もあります。犬の皮膚腫瘍全体の約20%を占めるとされており、高齢犬や特定犬種(ボクサー、ラブラドールなど)で多くみられます。肥満細胞腫では、ダリエ徴候と呼ばれる症状を引き起こす場合があります。ダリエ徴候とは、肥満細胞腫が刺激された(引っ掻いた、擦ったなど)場合に、腫瘍細胞に含まれるヒスタミンなどの化学物質が放出され、周囲の皮膚に炎症を引き起こされ、赤く腫れてしまう病態です。

口角部
耳介
前肢指端
右大腿部皮下
右臀部
体幹部

身体検査

 腫瘍の拡がり、リンパ節の腫脹などの評価が重要

細胞診検査

 基本的には細胞診検査で診断が可能です。

 無顆粒性MCTの場合には組織生検が必要です。

 次の場合は、リンパ節/肝臓/脾臓の細胞診検査を実施します。

 ・腫瘍が大型の場合(3cm以上)

 ・リンパ節が腫大している場合

 ・腹部超音波検査にて肝臓・脾臓への浸潤を疑う場合

腹部超音波検査

 脾臓・肝臓を中心に評価を行います。

c-kit遺伝子変異

 MCTの約30%で変異が認められます。

上記の検査より、MCTのステージ分類を行います。

肥満細胞腫の細胞診検査

 0:組織学的に確認された単独の皮膚肥満細胞腫の不完全切除、リンパ節転移なし

 1:真皮に限局した単一の腫瘍で、領域リンパ節に浸潤がない

 2:真皮に限局した単一の腫瘍で、領域リンパ節に浸潤がある

 3:多発性の真皮内腫瘍または大きな浸潤性腫瘍(領域リンパ節/浸潤ありとなし)

 4:遠隔転移があるすべての腫瘍、または転移腫瘍の再発 a. 全身症状を伴わない b. 全身症状を伴う

  a .全身症状を伴わない b. 全身症状を伴う

グレード分類(悪性度の評価)が重要です。

・Kiupel分類:低グレード/高グレードの2段階分類

・Patnik分類:グレード1・2・3の3段階分類(3が高悪性度)

外科治療

 第一選択となる治療です。

 腫瘍の広範囲での切除とセンチネルリンパ節の摘出が推奨されています。

 センチネルリンパ節が不明な場合にはリンパ管造影を行います。

 *センチネルリンパ節:最初に腫瘍が転移するリンパ節

右後肢皮膚肥満細胞腫

放射線治療

 外科治療が適応にならない場合に選択されます。

化学療法

 再発・転移の防止を目的に補助治療として行う場合があります。

分子標的薬

 c-kit遺伝子変異がある場合には治療効果がかなり期待されます。

 c-kit遺伝子変異がない場合でも約30%で効果が認められます。

予後は摘出組織のグレードや切除の完全性などによって予後は大きく異なります。低グレードであれば完全切除であれば予後は良好です。高グレードや転移がある場合には、様々な治療を組み合わせた場合でも、残念ながら予後は不良となることが多いです。

肥満細胞腫は様々な見た目をしており、見た目での診断は困難です。細胞診検査により診断が可能な場合が多いので、しこりを発見された場合には早めの診察をおすすめします。当院では、外科治療や化学療法が治療が可能です。放射線治療をご希望される場合には適切な施設へご紹介させて頂きます。外科治療が最も有効な治療法となりますので、外科治療を推奨しますが、腫瘍の発生部位や悪性度によってはその他の治療と組み合わせた治療が必要となります。動物とご家族に合わせた治療を相談させて頂きます。

*画像提供:松原動物病院