犬の胸腺腫

胸腺腫は比較的まれな腫瘍であり、ラブラドールレトリーバーやゴールデンレトリーバーで多く報告されています。胸腺上皮細胞由来の腫瘍であり、リンパ球や肥満細胞が含まれています。稀に浸潤性を示すことがあり、悪性胸腺腫などと呼ばれる場合がありますが、転移は稀とされています。症状としては、咳や呼吸困難、運動不耐性などがありますが、胸部レントゲン検査を実施した際に偶発的に発見される場合もあります。また、重症筋無力症が胸腺腫に関連して発生する(腫瘍随伴症候群)ことがあります。重症筋無力症により巨大食道症が発生し、誤嚥性肺炎による死亡するケースが多いです。

身体検査

 心雑音や呼吸様式の評価を行います。

血液検査

 全身的な評価を行います。

 細胞診検査を行う場合には、血液凝固系も評価します。

胸部レントゲン検査

 前縦隔部腫瘤、胸水などの評価を行います。

胸部超音波検査

 腫瘤の形態:嚢胞の有無や周囲臓器との関連性を評価します。

 胸水、心臓などの評価を行います。

細胞診検査

 胸腺上皮細胞が採取されることは多くありません。

 小型リンパ球が主体で肥満細胞が認められる場合が多いです。

CT検査

 手術実施時には必須の検査となります。

 周囲組織や血管との関連性の評価を行い、手術適応かどうかを判断します。

胸部レントゲン検査
CT検査

外科治療

 胸腺腫に対する第一選択の治療です。

 胸骨正中切開によるアプローチが一般的で、侵襲度の高い手術となります。

 術後は疼痛管理や呼吸状態の評価が重要です。

胸骨
胸骨
術後レントゲン検査ワイヤーによる胸骨固定

放射線治療(RT)

 外科治療が不適応な場合や再発時に選択されます。

化学療法

 有効性は不明です。

 摘出した腫瘍の悪性度が高い場合には術後化学療法(カルボプラチンなど)を行う場合があります。

 腫瘍の再発や転移を認めた場合には、トセラニブによる治療を行う場合があります。

プレドニゾロン

 軽度の縮小効果が期待できます。

 外科摘出に先立ってプレドニゾロンの投薬を行い、胸腺腫を小さくしてから外科摘出を行う場合があります。

外科治療により、完全切除できた場合には良好な予後が期待できます。

・外科治療による生存期間中央値(MST):犬 635〜790日

・放射線±抗がん剤:75%で反応、MST 8ヶ月

・予後不良因子:重症筋無力症の併発、腫瘍内リンパ球の割合が少ない

胸腺腫は、健康診断や他の検査の際に偶発的に見つかることも多い腫瘍です。そのため、発見時には症状がなく、「今すぐ治療をする必要はないのでは」と感じられることもあります。しかし、無治療のまま経過をみていると、腫瘍は徐々に大きくなることが多く、進行に伴って呼吸困難や咳などの症状が出てくる可能性があります。また、腫瘍が大きくなることで外科摘出が困難になる場合もあります。一方で、外科的に完全摘出ができた場合には、完治が期待できる腫瘍でもあります。そのため、全身状態や検査結果を踏まえたうえで、手術が可能と判断される場合には、積極的な外科治療が推奨されます。胸腺腫の手術は、胸を開ける外科手術となるため、術後には一定の痛みを伴います。そのため、十分な疼痛緩和を行うこと、また呼吸状態を注意深く評価・管理することが非常に重要です。当院では、術後の痛みや呼吸の状態を丁寧に確認しながら、その子に負担の少ない形で適切な術後管理を心がけています。

*画像提供:松原動物病院