猫の縦隔型リンパ腫

縦隔型リンパ腫は、胸腔中央(縦隔)に位置する胸腺および縦隔・胸骨リンパ節に発生するリンパ腫です。猫では比較的若齢で発生することが多く、腫瘍の発生部位の特性から、腫瘍そのものの悪性度よりも、胸腔内臓器への圧迫によって臨床症状が出現する点が大きな特徴です。腫瘍が縦隔内で増大すると、肺が圧迫され呼吸困難や頻呼吸などの呼吸器症状を主体とした経過を示します。また、胸水貯留を高頻度に伴うことが知られており、胸水の性状は漿液性出血性から乳糜性までさまざまです。縦隔に腫瘤性病変を認めた場合、縦隔型リンパ腫と胸腺腫の鑑別は臨床上きわめて重要です。両者はいずれも胸腺周囲に発生し、画像検査で類似した所見を示すことがあるため、単一の検査だけで鑑別することは困難な場合があります。本疾患は、猫白血病ウイルス(FeLV)感染が陽性で発生するタイプと、FeLV陰性で発生するタイプが存在し、これらは生物学的挙動や治療への反応性が異なる可能性があります。FeLV陽性で発生するタイプでは、若齢(年齢中央値2~4歳)時の発生が多いとされています。

身体検査

 呼吸数や呼吸様式の評価、聴診などを中心に行います。

血液検査

 白血球数(特にリンパ球数)を中心に評価します。

胸部レントゲン検査

 前胸部腫瘤や胸水の有無を評価します。

 前胸部腫瘤を認めた場合には、縦隔型リンパ腫と胸腺腫の可能性を疑います。

胸部超音波検査

 腫瘤のサイズや形態、胸水の有無を評価します。

胸水抜去および胸水性状検査

 胸水貯留が認められる場合には、超音波ガイド下での胸水抜去を行います。

 呼吸状態が悪い場合には、酸素供給を行いながら検査を実施します。

 動物が過度に動いてしまう場合には、鎮静処置を行います。

 縦隔型リンパ腫の場合:胸水中に腫瘍性リンパ芽球が確認されます。

 胸腺腫の場合:小型リンパ球と上皮性細胞が確認されます。

細胞診検査

 前胸部腫瘤に対して実施します。

 胸水と同様に腫瘍性リンパ芽球が観察された場合には縦隔型リンパ腫を疑います。

クローナリティー検査

 縦隔型リンパ腫はT細胞性が多いとされています。

 胸腺腫との鑑別にも有用です。

CT検査および組織生検

 前述した検査で診断がつかない場合に実施します。

胸部レントゲン検査:前胸部腫瘤胸水
胸部レントゲン検査:前胸部腫瘤・胸水
胸水中の腫瘍性リンパ芽球

化学療法

 縦隔型リンパ腫に対する第一選択の治療となり、多剤併用治療が推奨されます。

 ・多剤併用療法:CHOP、COPなど

  *C:サイクロホスファミド、H:ドキソルビシン(ADR)、O:ビンクリスチン、P:プレドニゾロン

 ・L-アスパラギナーゼ:酵素であり、リンパ腫に必要なアスパラギンを分解することにより抗腫瘍効果を示します。

 ・プレドニゾロン:リンパ腫に対して一定の効果を認めます。

 FeLV陰性の場合には、化学療法に対する反応性が比較的良好で、長期生存できる可能性があります。

 FeLV陽性の場合には、再発や治療抵抗性を示すことが多く、予後は慎重な評価が必要となります。

支持療法

 胸水抜去

 酸素供給

FeLV陰性の場合は予後は比較的良好ですが、FeLV陽性の場合には予後不良となります。

・化学療法(COPまたはCHOP):全奏効率 95%、MST 373日

・完全寛解を達成:最長生存期間 980日

・FeLV陽性:化学療法によるMST 2~3か月

 *MST:生存期間中央値

 *完全寛解:検査などで腫瘍が確認できない状態

縦隔型リンパ腫は、呼吸状態が悪化した状況で見つかる場合が多いですが、適切な治療によって呼吸状態の改善が期待できる疾患です。治療の主体は化学療法で、身体への負担を伴う治療ではありますが、縦隔型リンパ腫では治療効果が期待できるケースが少なくありません。治療に良好に反応した場合には、症状が安定し、年単位での生存が期待できる症例も報告されています。一方で、FeLV陽性の猫では予後が厳しい傾向があることも事実です。ただしそのような場合であっても、治療によって呼吸状態や全身状態が改善し、生活の質(QOL)の向上が得られる可能性があります。治療を行うかどうか、どの程度の治療を目指すかは、その子の状態やご家族のお考えによって最適解が異なります。治療のメリット・デメリットを丁寧にお伝えしながら、その子とご家族にとって納得できる治療選択肢を一緒に考えていきたいと考えています。

*画像提供:松原動物病院