犬の甲状腺腫瘍(甲状腺癌)
甲状腺は、首の気管の両側に位置し、体の代謝を調整する甲状腺ホルモンを分泌する臓器です。犬の甲状腺腫瘍は、全犬腫瘍の約1.2〜4.0%を占める比較的まれな腫瘍ですが、その63〜88%は悪性(甲状腺癌)とされています。発症年齢の中央値は9〜10歳で、ボクサー、ビーグル、ゴールデン・レトリバーなどで好発傾向が知られています。甲状腺癌は、可動性があり周囲に浸潤していないタイプと周囲組織に浸潤し固着するタイプの2つに大別されます。前者の場合には、無症状で首のしこり(頸部腹側腫瘤)として発見されることが多いですが、後者の場合には呼吸困難や声の変化、飲み込みづらさなどが認められる場合もあります。甲状腺機能(甲状腺ホルモンの分泌量)は正常な場合が多いですが、甲状腺機能亢進症(甲状腺ホルモン量の増加)や低下症(甲状腺ホルモン量の低下)が認められることもあります。両側性での発生が25~45%で認められています。
診断
身体検査:腫瘤の大きさ、硬さ、可動性を評価します。
血液検査
・甲状腺ホルモン濃度を含めて評価を行います。
・細胞診検査を行う場合には血液凝固系も評価します。
超音波検査
・頸部:腫瘍の構造や血流、周囲組織との関係を確認します。
・腹部:肝臓を中心に転移の有無を評価します。
細胞診検査:神経内分泌系の細胞が採取されます。



胸部レントゲン検査:肺転移の有無を評価します。
CT検査
・腫瘍の拡がり、周囲組織との関連性を評価します。
・固着がない場合には、境界明瞭で球形に腫大しているが多いです。
・固着がある場合には、気管や血管取り囲むように境界不明瞭な場合が多いです。






治療
外科治療
可動性のある甲状腺腫瘍に対しては、外科治療が第一選択となります。
転移が認められる場合でも、甲状腺腫瘍による嚥下困難や呼吸困難を改善・予防するためを外科治療を行う場合があります。
外科治療後の生存期間中央値(MST) 3年



放射線治療
可動性のない甲状腺腫瘍に対して実施します。
甲状腺腫瘍は放射線感受性の高い腫瘍であり、治療効果が期待されます。
放射線治療が適応となる場合には、適切な施設を紹介致します。
根治的照射:1年生存率 80%、MST 24ヶ月
緩和的照射:MST 6ヶ月
化学療法
外科不適応な場合や術後補助治療として実施される場合があります。
・トセラニブ:有効性が報告
臨床的有用率:80-100%(部分寛解 30%、維持病変 50-70%)
初期治療として使用:MST 19ヶ月
再発時などに使用:MST 36ヶ月
予後
甲状腺腫瘍に対する予後因子は以下の通りとなります。
・可動性の有無:可動性あり 3年以上、ない 6-12ヶ月
・両側性の発生:転移リスク 16倍(近年の報告では転移率は低い、MST 38ヶ月)
・機能性腫瘍に対する外科治療の有無:外科治療あり MST 72ヶ月、外科治療なし 15ヶ月
飼い主様へ
甲状腺腫瘍は、初期の段階ではほとんど症状が出ないことが多い腫瘍です。そのため、普段から首元(頸部)をやさしく触る習慣があると、しこりの存在に早く気づけることがあります。早期に発見できた場合には、外科手術によって長期生存が期待できます。一方で、周囲の組織に強くくっついている(固着性がある)場合には、予後が厳しくなることがありますが、それでも治療によって呼吸や飲み込みなどの症状が改善し、生活の質(QOL)が向上するケースも少なくありません。その子の状態やご家族のお気持ちに寄り添いながら、考えられる治療の選択肢を丁寧にご提案し、一緒に最善の方針を考えていきます。
*画像提供:松原動物病院

