犬の鼻腔内腫瘍

犬の鼻腔内腫瘍は、上皮性腫瘍(腺癌、扁平上皮癌、未分化癌など)が最も多くを占め、残りの多くは非上皮性腫瘍(線維肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、未分化肉腫など)とされています。腫瘍の種類にかかわらず、臨床症状は共通しており、初期には鼻汁や鼻閉塞といった軽度の症状がみられますが、病変の進行に伴い鼻出血や顔面の腫脹が出現するようになります。初期症状が慢性鼻炎や歯科疾患と非常に似ていることから、抗生剤などの対症療法が選択され、一時的に症状が改善した後、再び悪化するという経過を繰り返し、顔面の腫脹や鼻出血が出現してから初めて鼻腔内腫瘍を疑い、診断される場合も少なくありません。このため、鼻汁や鼻閉塞などの症状が長引く場合や、治療に反応しにくい場合には、早期の段階でCT検査や組織生検などの精密検査を実施することが重要と考えられます。また、鼻腔内腫瘍は診断時の遠隔転移率は比較的低いとされていますが、腫瘍が鼻腔内から頭蓋内(脳)へ浸潤することが原因で引き起こされる発作などの神経症状が主な死因となります。

身体検査

 顔面の腫瘍、鼻汁/鼻血の有無を評価します。

 鼻の開通性の評価

 ・鼻の前にティシュなどを垂らして、息で揺れるかを評価します。

 ・鼻の前にガラスを当てて、息でガラスが曇るかを評価します。

 歯科疾患がないかを評価します。

 下顎リンパ節の触診を行います。

血液検査

 血液凝固系を含めた評価を行います。

血圧測定

 鼻血がある場合には実施します。

CT検査

 鼻腔内評価に最も有用な検査となります。

 腫瘍の拡がり、リンパ節腫大の有無などを中心に評価します。

CT画像
CT画像
CT画像(篩板の破壊)

病理組織学的検査

 CT検査により腫瘍の場所を確認して、組織生検を実施します。

 生検鉗子やストローを用いて生検を実施します。

 腫瘍の部位によっては鼻腔鏡を用いて組織生検を行います。

生検鉗子
ストロー生検
実際の生検方法:鼻腔に挿入

放射線治療

 鼻腔内治療に対する第一選択となる治療です。

 放射線治療は複数回の全身麻酔が必要となります。

 照射方法には根治的照射と緩和的照射があり、治療目的によって選択します。

 根治的照射 MST 8〜19.7ヶ月

緩和的照射 MST 5〜17ヶ月

*MST:生存期間中央値

 専門の設備が必要なため、適切な施設へ紹介致します。

化学療法

 放射線治療が実施できない場合や放射線後の補助治療として実施する場合があります。

 トセラニブ:臨床的有用率 60~97.3%、症状の改善が報告されています。

 *臨床的有用率:治療により腫瘍が消失・縮小・維持された割合

内科治療

 NSAIDs

  解熱鎮痛剤であり、COX阻害薬となります。

  犬の鼻腔腺癌の71~95%でCOX-2発現が認められています。

  実際の有効性は報告されていません。

 止血剤/抗生剤:症状によっては使用します。

予後は治療方法や進行度によって異なります。

・無治療 MST 3ヶ月

・ステージ4(指板の破壊) MST 2ヶ月

・放射線治療の照射方法 根治的照射 17ヶ月、緩和的照射 10ヶ月

鼻の症状が長く続く場合や、治療によって一時的に良くなった後すぐに悪化する場合、鼻血が出るといった経過がみられる場合には、鼻腔内腫瘍が隠れている可能性を考え、早めに詳しい検査を行うことが重要です。鼻腔内腫瘍は、慢性鼻炎や歯科疾患と症状が似ており、症状だけでの判断が難しい病気です。CT検査などの画像診断と組織生検により、腫瘍の位置や広がり、周囲構造への影響を評価し、治療方針を検討します。腫瘍の種類や進行度、その子の状態に応じて、放射線治療や内科治療により症状の緩和や生活の質(QOL)の改善が期待できる場合があります。治療の目的や範囲は、その子の状態やご家族のお考えによって異なりますので、ご家族と一緒に最適な治療・ケアを考えていくことを大切にしています。