犬の肛門周囲腫瘍(腺腫・腺癌)

犬の肛門周囲で最も発生が多いのが肛門周囲腺腫です。肛門周囲腺腫は良性腫瘍であり、犬の肛門に輪状に存在する肛門周囲腺という腺組織が腫瘍化したもので、肛門以外にも包皮、尾などにも散在しています。肛門嚢は、肛門の4時方向および8時方向に位置する、皮膚の下に存在する袋状の構造で、肛門周囲腺とは異なります。肛門周囲腺腫の発生や進行には性ホルモンが関連されると考えられており、アンドロゲン(男性ホルモン)によって増殖が促進され、エストロゲン(女性ホルモン)によって抑制されます。そのことから、高齢の未去勢雄犬が最もリスクが高く、平均発症年齢は10歳と報告されています。雌犬ではほとんどが避妊済みで発生します。まれに、副腎からのアンドロゲン性ステロイド分泌が、雌犬での肛門周囲腺腫形成を刺激することがあります。肛門周囲腺癌は肛門周囲腺由来の悪性腫瘍であり、肛門周囲腺腫と比べると発生頻度は低く、全体の3~21%を占めます。去勢・未去勢雄犬、雌犬のいずれにも発生し、明確なホルモン依存性は示されていませんが、発生初期にホルモンが関与している可能性は否定されていません。一般的には大型で成長が速い、硬い、潰瘍化しやすい、可動性がない(深部組織に固着)することが多いとされています。肛門周囲腺上皮腫という分類も存在し、低悪性度腫瘍と考えられています。現時点では、肛門周囲腺腫と肛門周囲上皮腫を明確に区別するだけの臨床的根拠は乏しいとされています。

肛門周囲腺腫
肛門周囲腺腫
肛門周囲腺癌

肛門周囲腺腫、肛門周囲腺上皮腫、肛門周囲腺癌の鑑別は外科治療後の病理組織学的検査で行います。

肛門周囲腺腫以外では転移を起こす可能性があるので、検査により転移の有無を詳細に評価します。

転移部位としては腹腔内リンパ節、肝臓、肺などが一般的です。

身体検査:肛門の評価、直腸検査を中心に行います。

血液検査:肛門周囲腺癌では稀に高Ca血症が認められます。

細胞診検査

・肛門周囲腫瘍では肝細胞様の細胞形態をとることが特徴です。

・基本的には良悪性の鑑別は困難ですが、異形性が強い場合には悪性腫瘍を疑います。

腹部超音波検査:腹腔内リンパ節、肝臓などを中心に評価を行います。

胸部レントゲン検査:肺転移の有無などを評価します。

CT検査

・悪性を疑う場合や腫瘍が大きい場合に実施します。

・CT検査によって転移の評価や外科治療の計画を立てます。

組織生検および病理組織学的検査

・悪性腫瘍の場合には広範囲のでの外科的切除が必要となります。

・腫瘍の一部を生検して病理組織学的検査で診断後に外科治療を検討する場合があります。

細胞診検査:肛門周囲腺腫
腫瘍の切除方法

外科治療

外科切除が肛門周囲腫瘍に対する第一選択となる治療ですが、良性腫瘍と悪性腫瘍では切除方法が異なります。良性腫瘍の場合には腫瘍の直近で切除する最小限の手術(辺縁部切除)を行います。一方、悪性腫瘍の場合には腫瘍周囲の正常組織を含めて広く切除すること(広範囲切除)が推奨されます。しかし、肛門周囲は広範囲に切除すると、手術の合併症として便失禁が生じるリスクがあります。そのため、悪性腫瘍と診断された場合には、根治性と便失禁のリスクを十分に考慮したうえで、切除範囲や手術方法を慎重に検討します。

1、良性腫瘍を疑う場合:腫瘍の辺縁部切除+去勢手術

2、悪性腫瘍を疑う+腫瘍サイズが小さい場合:便失禁が起こらない範囲で広めに切除+去勢手術

3、腫瘍サイズが大きい場合:組織生検+去勢手術

 ・良性腫瘍:去勢手術の影響による腫瘍サイズの変化によって追加治療を検討

 ・悪性腫瘍:便失禁のリスクを許容した外科治療を行うか、その他の治療を検討

肛門周囲腺腫:外科治療前

放射線治療

 外科治療が不適応な場合には実施を検討します。

 実際の有効性は不明です。

化学療法

 外科治療が不適応な場合や、外科治療後の補助治療として実施する場合があります。

 実際の有効性は不明です。

肛門周囲腺腫の場合には外科治療により予後は良好です。

肛門周囲腺癌の場合には、腫瘍サイズが主な予後不良因子として報告されています。

・腫瘍サイズが5cm以上 死亡リスクが11倍、生存期間中央値 6~12ヶ月

・2年生存率 2cm未満 75%、2-5cm 60%

・転移がある場合 生存期間中央値 7ヶ月

肛門周囲腺上皮腫の予後は不明です。

肛門の周囲にできる腫瘍は、犬では比較的よくみられる病気です。多くの場合は良性腫瘍で、適切な外科手術によって完治が期待できます。特に肛門周囲腺腫では、去勢手術を併せて行うことが再発予防のために重要になります。一方で、まれに悪性腫瘍が含まれることもあり、その場合は命に関わる可能性があります。ただし、早い段階で発見し、適切な治療を行うことで、長期間の生存が期待できるケースも少なくありません。肛門周囲の腫瘍は、大きくなるほど悪性の可能性が高くなる傾向があり、「小さいから様子を見よう」としている間に進行してしまうことがあります。そのため、小さい段階での積極的な検査・治療をおすすめしています

*画像提供:松原動物病院