犬のインスリノーマ

犬のインスリノーマ(膵島β細胞腫瘍)は、膵臓のβ細胞が腫瘍化し、必要以上にインスリンを分泌してしまう腫瘍です。インスリンが過剰に出続けると、血糖値の低下(低血糖)を引き起こし、さまざまな臨床症状が引き起こされます。低血糖の影響を最も受けるのが脳であり、放置するとてんかん発作を引き起こし、重度の場合には昏睡や生命の危機に直結します。インスリノーマは転移率が高い腫瘍であり、診断時には30~50%で転移があると報告されています。転移部位としては周囲のリンパ節や肝臓が多いとされています。

身体検査

 ふらつきや発作など神経症状がないかを中心に評価します。

血液検査

 血糖値や肝臓機能の評価を中心に行います。

 インスリン測定

  血糖値と同時に測定する必要があります。

  正常では血糖値が低い場合にはインスリン分泌が抑制されます。

  インスリノーマの場合には低血糖であるにも関わらず、インスリンが正常〜高値を示します。

腹部超音波検査

 膵臓、肝臓、リンパ節の評価を中心に行います。

CT検査

 腹部超音波検査より検出感度が高い検査です。

 外科治療を行う場合に腫瘍の拡がりを評価するために必須となります。

インスリノーマによる死因のほとんどは低血糖です。転移したリンパ節や肝臓からもインスリンが分泌されるので、腫瘍が拡がるにつれてインスリン分泌量も増加します。その結果、低血糖がコントロールできなくなり神経症状で亡くなってしまいます。

外科治療

低血糖の改善および生存期間の延長が期待できる最も有効な治療です。

腫瘍が拡がっている場合(ステージⅡ・Ⅲ)でも、外科治療によりインスリン分泌量の減少と低血糖の改善が期待できます。

病変摘出後には即座に血糖値は上昇しますが、血糖値の上昇がない場合には隠れている病変の探索と追加切除を行います。

化学療法

外科治療後や再発した場合、外科治療ができない場合に行います。

・ストレプトゾトシン

  膵臓β細胞に対して選択的に毒性を示す抗がん剤です。

  腎臓毒性が強いため、投与前後の点滴が必要となります。

  実際の有用性は不明です。

・トセラニブ

  再発性または転移性インスリノーマに対する有用性が報告されています。

  生存期間中央値:投与群 13ヶ月、非投与群 2ヶ月

内科治療

低血糖に対する治療を行います。

・食事管理:高蛋白で単糖類が少ない食事を、少量頻回で給餌します。

・運動制限:運動による糖の消費を抑えます。

・糖液の補給:経口的または静脈投与

・プレドニゾロン:糖新生を促進します。

・グルカゴン:肝臓でのグリコーゲン分解と糖新生を促進します。

・オクトレオチド:インスリン合成と分泌を抑制します。

・ジアゾキシド:インスリン分泌を抑制します。

インスリノーマの生存期間中央値(MST)は以下のようになります。

外科治療あり 14ヶ月、外科治療なし 6ヶ月

ステージ1・2 18ヶ月、ステージ3 6ヶ月

術後高血糖あり 22ヶ月、術後高血糖なし 3ヶ月

インスリノーマは低血糖によって生命に危険を及ぼす腫瘍で、診断時にすでに転移がみられることも多いため、早期診断と外科治療が理想的です。ただし、転移がある場合でも外科治療によって低血糖が改善し、元気な生活を過ごせる事も多くあります。もし、手術が難しい場合でも、血糖を維持する薬や食事管理など、さまざまな内科治療を組み合わせることで症状をコントロールすることが可能です。その子とご家族にとって最善の方法を一緒に考えながら、穏やかに過ごせる時間をできるだけ長く保つことを目指します。

*画像提供:松原動物病院